数学の答案の書き方

数学の答案の書き方、それだけで講習1ターム消化できるくらい、意識できていない受験生が多い。今回はかなり具体的で有益な情報を挙げたので、またいつもの趣味の評論かと思わないで、心して読むがよろしい。途中で飽きないで頑張って。

例えば、証明問題については、問題文で与えられた前提条件から証明すべき命題までの情報の流れを構造化する。ここが全てと言ってよい。しかし、大半の受験生は、情報の構造化よりも細部に目を奪われる。確かに『神は細部に宿る』のだが、大半の受験生がやっているのは『人は細部に囚われる』である。

表現がわかりにくいか。簡単に言うと、人の顔のデッサンをするのに、いきなり右耳だけを完璧に仕上げてしまうようなことをやっている受験生が多い。ちゃんと全体のバランスを見て配置を確認しながら、少しずつ細部を仕上げてゆくのが、一応、正しいやり方だ。

細部にこだわるのは大切だが、順序が違う。大切なのは骨であり、肉ではない。『神は細部に宿る』という言葉は本来デザイン(建築)における表現であり、全体としてミニマルな表現を目指しつつディティールの仕上げにこだわることで美しさを表現しようという意味である。だから、そもそも全体がミニマルデザインであることが必要で、ディティールの蓄積ないし増築に次ぐ増築で増殖したアメーバのような建築を意味しない。意味がわかるだろうか。

そう、大半の受験生諸君の答案は、アメーバ答案と名付けたいものになっている。全く骨格(構造)がなく、どろどろとした肉(細部)だけでできているとてつもなく気味が悪い答案が多い。読みにくいことこの上ない。では、どうすれば良いか。

何がダメかを指摘しているとキリがないので、以下に、正しい書き方の指針のみ列挙しておく。かなり核心となる情報を公開しているので、気合い入れて読んでほしい。使いこなせるかは別問題だが、最小限伝えたいことは出し惜しみなしに全て書いた。

(1)読み手を意識
全ての著作物には受け取り手がいる。まずそれを意識しよう。
数学の答案の場合、読者は数学の知識が豊富な採点者である。
・日本語的というよりは数学的にわかりやすく書く。
「条件pと条件qは同値である」と書くよりは「p⇔q」と書く
・数学的に論理の飛躍がなければ無駄な説明は不要。
「-1≦sinx≦1」についてイチイチ説明する必要はない。高校数学でそれを自明として良いことを読み手は知っている。
・部分点がもらえるよう、意味のある式を必ず残す。
「6人を名前の付いた2つの部屋に3人ずつ入れる入れ方は6C3*3C3」これを「6C3だけ書くとか記号を使わず数字だけの計算式を書く」というのは部分点など不要かつ計算ミスなどあり得ないという猛者以外やらない方が良い。一目見て意味のわかる式を書いておけば、自分で見直す時もわかりやすいし採点者もそこをとりあえずのチェックポイントにできる。

(2)名付けルールを固定
自分なりで良いが名付け方のルールを決めてルーチン化する。迷わず機械的に処理する。
・点 A B C P Q(小文字を使わない)
・数 a b c α β γ s t u x y z(大文字を使わない)
・与式 (*)(**)(***)
・自分で作った式 ① ② ③
・グラフ・図 [図1][図2][図3]
・命題 A B C

(2′)定義を明確に
自分で文字を置いたり式を立てたりした場合は、定義を明確にする。
定義さえ明確にしていれば、「a鯖b=c鰯d」などという演算記号を使うことも可能である。かつて受験生時代に魚へんの漢字で演算を定義して答案を作るということを模試で実験したことがある。結果、微妙な採点をされたため、後日教育的な見地からいかがなものかと問い合わせる羽目になった。一応明確に定義を書いていたためオーケーということになったが、やはり、直感でわからないことが採点上マイナスに働くためお勧めしない。演算記号そのものを自分で定義することは経験上やらないよう言っておく。普通は値を文字で置く。値を文字で置くことは極めて頻繁に行う。その際に、メタデータを付け加えることを忘れないようにしよう。メタデータとはデータのためのデータという意味であり、そのデータが何であるのかを示している。
「α+β+γ=1」では何の式かよくわからない。どういう範囲で考えればよいか定義がないからだ。「α,β,γは複素数の範囲とする」というメタデータがあれば式の意味はよくわかる。
「PはC上を動く」という文章もわかりにくい。「点Pは放物線C上を動く」だとわかりやすい。
要するに、文字についてそれが「点」「定数」「変数」「自然数」「整数」「実数」「虚数」「直線」「円」などの何らかのメタデータを持っている場合、定義時に書き漏らしてはいけない。変域が限定されている場合は、それも書き漏らしてはいけない。
自分で文字を設定するときに大切なことは、その文字が持っている情報を、定量的にも定性的にも漏らさず書くことである。

(3)情報の階層構造
・適切な順序
上中下、左中右、過去現在未来、大中小、未知から既知、スタートからゴール、具体(特殊)から抽象(一般)など
順序は逆でも良いが並び順に一貫性を持たせる。下中上は良いが中上下はダメ。
・適切な階層
情報が多く場合分けが発生したりするときは、階層の親子関係をしっかり意識する。親階層と子階層の場合分けを並列に書かない。
(1)(i)
(ii)
(2)(i)
(ii)①

(iii)
(1)(2)は親階層(i)(ii)(iii)は子階層①②は孫階層
・MECE(ミーシー)に分割
MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)を直訳すると「相互に排他的で集合として余すところがない」となる。大きな要素を小さな要素に分割して考えるという場面はよくある。デカルト氏もそうしろと言っている。その際のルール。「モレなくダブりなく場合分け」をカッコよく言うとこうなる。各階層の要素は必ずMECEである必要がある。
「分ける基準は一つだけ」
どんな基準に着目してもMECEに分けることはできるが、ぼんやりした分け方をすると途端にダブりやモレが出てくる。例えば、赤青黄3色の球がそれぞれ10個ずつあって1から10まで番号が書いてあったとする。そこから3個球を取り出す取り出し方について考えよう。全体の場合の数を数えるだけなら、異なる球が30個あって3個取り出すだけだから、30C3で終わり。ただ、少なくとも一個赤を取り出す確率とか赤は取り出すが黄は取り出さない確率とかいろいろなことを聞かれた時に対応できるよう、状況をすべて把握する下準備として全部場合分けしておこう。あくまでも説明のための例である。本来なら問題で問われたことに即して必要なものだけ数えれば良い。
良くない例)
赤だけ・赤と青・赤と黄・青だけ・青と黄・黄だけ・赤と青と黄
一応MECEに分けられているが、何を基準に分けたのかが無意識の処理になっている。一応、次に挙げる良い例と同じ分け方になっているが分け方の階層が違うため、100%正しい確信が持てない。そこに注意してほしい。こういう感じで分けてしまうと、もっとややこしい問題の時に間違うかもしれない。
良い例)
(1)3色取り出す(2)2色だけ取り出す(3)1色だけ取り出す
この場合、「何色取り出すか」という一つに絞った明確な基準があるので、この場合分けにモレもダブりも絶対にない。断言できる。0色も4色もないし、1.5色とかもないので、必ずこの3通りしかない。この「絶対大丈夫」と断言できることが重要。実はまだもうちょっと場合分けしないといけないが、この時点で間違いはない。安心して次に進める。そして、次に子階層でもう少し場合分けをする。
(1)赤と青と黄
(2)(i)赤と青(ii)赤と黄(iii)青と黄
(3)(i)赤だけ(ii)青だけ(iii)黄だけ
さらに(2)について孫階層。
(2)
(i)赤と青①赤2個青1個②赤1個青2個
(ii)赤と黄①赤2個黄1個②赤1個黄2個
(iii)青と黄①青2個黄1個②青1個黄2個
ここまで分割すれば、後は計算できるだろう。ここから先の計算は、いま問題としている本質ではないので省略する。とにかく、面倒かもしれないが、場合分けが煩雑になればなるほど、最初の大きな分割を絶対確実なものとするため、基準は一つだけに絞って分割する。分割してゆけば、いずれ、簡単な大きさになるので、そうなったらシラミツブシ作戦で全て書き上げればよい。これを徹底すれば、場合分けのモレとダブりは防げる。念を押す。最初から全部分けようと思わない。まず、一つの基準だけに着目して確実に分割する。それを繰り返す。いずれ直感で処理できる大きさになる。
これはあくまでも、例であり、場合分けの仕方は他にもいろいろあるだろう。赤の個数で場合分けするとか、それは問題に応じて自由に基準を設定すれば良い。
最後に、一応念のために言っておくが、これは場合の数や確率に限った話ではない。aとbという2つの定数について場合分けが生じたりするときも、どちらかだけに注目しながら場合分けした方がわかりやすいことが多い。2次方程式の解の配置問題なども、軸と端点情報と判別式で場合分けして判断するが、いろいろ混ぜずに、軸で分けて次に判別式で分けて最後に端点情報を調べるなどと一つずつ段階を踏んだ方が間違いにくい。

(4)飛躍の徹底排除
・形式を徹底して読みやすさを守る
「むやみに左右を入れ替えない」
log2<logb
⇔b>2と書かず
⇔2<bと書く
最後に答としてb>2と書くのは良い。
「式の粒度をそろえる」
各項の計算段階をそろえる。
s=3,t=4のとき
(s+t)(st-s-t)+s+3
=7(12-7)+s+3これは代入計算の粒度がそろっていない。計算が簡単すぎてこんなんどうでもええやん、とか思うかもしれないが、「いつも同じ手順」を守るために、計算する際の各項の粒度については意識しておこう。そろえるためには、
=7*5+6として各項の暗算をやりきってしまうか、
=(3+4)(3*4-3-4)+3+3として何を代入したか明確に記してから計算する。代入したことを誰が見ても明らかなように記しておけば、後の計算は少々雑でも良い。
「=と⇔を使い分ける」
○命題 AB
○値 s = t
×命題 A = B
×値 s ⇔ t
つまり式を変形するときは⇔ 値を計算するときは=を使うのが規則。

以上、とりあえず、これだけ挙げておく。これをきちんと守って書ければ、だいぶ見やすい答案になるはずだ。一朝一夕にできることではないが、少しでも意識してもらえたら、採点者も喜ぶし、点数も上がる。良いことしかないので、心がけて欲しい。